処分審査の概念(まとめ) - 木村草太の力戦憲法
処分審査の概念(まとめ) - 木村草太の力戦憲法
この数カ月、「処分審査」の概念について、いろいろご質問をいただき、多くの方と議論をさせていただきました。
ちょっとまとめておきたいとおもいます。
1 二つの処分審査
まず、「処分審査」という言葉ですが、これは二つの使い方があるようです。
第一は、その処分を基礎づけている法令の一部分の合憲性を審査すること、
を指して使われる場合です。
例えば、公務員の政治活動を禁じた国公法102条のうち、
勤務時間外に地位を利用することなく行われた政治活動に適用される部分の審査
(猿払一審の審査ですね)を意味する場合。
第二は、その処分を基礎づける法令の法令審査を経て
その法令の違憲部分の除去(部分無効や合憲限定解釈)ないし
その法令の合憲性の確認を経たうえで、
その処分が、その法令の要件を充たしているか、の審査をいう場合。
例えば、公務員のストのあおり行為を禁じた法律を
これは悪質でないストに適用するのは違憲だから、
これは悪質なストに限定すべきとする合憲限定解釈を経た上で、
これが悪質なストといえるかどうか、を審査する場合ですね。
この二つは、同じ「処分」の「審査」といっても全然違います。
前者は、法令(の一部)の憲法適合性判断であり、
後者は、処分の要件を充たしているか否かの判断です。
後者は、法の適用であり、厳密な意味での憲法判断ではありません。
以下、
前者の(法令の)部分審査を<処分審査1>、
後者の(処分の)適法審査を<処分審査2>と呼びましょう。
2 よくある質問
さて、処分審査をめぐっては、しばしば次のような質問を頂きます。
Q1 (法令審査では立法事実を)処分審査では司法事実を参照するのですか?
Q2 処分審査では、目的手段審査はしてはいけないのですか?
この問題への回答は、そこでいう「処分審査」が
<処分審査1>をいうのか、<処分審査2>をいうのか、
でかわってきます。
3 <処分審査1>=法令の部分審査の場合
まず、法令の部分審査という意味での<処分審査1>です。
Q1 立法事実と司法事実
ここで立法事実と司法事実の定義をしておきます。
この言葉も例によっていろいろと勝手な使われ方をしますが、
厳密な定義は次のようになります。
立法事実=法令の合憲性を基礎づけ支える事実
司法事実=裁判所が、要件事実の有無を判定するために認定した事実
法令の部分審査は、その処分の合憲性ではなく、
その処分が含まれる類型の法令の合憲性の審査をするものです。
なので、ここで参照されるのは立法事実です。
では、司法事実は?ということですが、
何が要件事実であるか、裁判所がどのような司法事実を認定すべきか?は、
法令の合憲性を審査し、その法令がどのような要件を規定しているか、を
画定しない限り、定まりません。
例えば、上のストライキの例でいうと、
悪質なストに限定する部分違憲又は合憲限定解釈が要求されるか、
そうでないか、によって、
法令上の犯罪成立要件がかわってきます。
もう少し抽象的に言うと、憲法判断は司法事実を認定するための前提であり、
憲法判断の段階で司法事実を参照することは、論理的に不可能である、
ということになるでしょう。
(もちろん、司法事実を、裁判所が認定した事実、と定義すれば、
この距離規制は、薬品の品質維持に役立つとか、
この法文から一般人は基準が読み取れないという、普通立法事実といわれる事実も
司法事実に含まれることになるので、この段階で参照されます。
しかし、それは司法事実と言う言葉を、法学者一般とは異なる
過度に広範で無意味な定義を前提につかっているからです)
Q2 目的手段審査
さて、それでは、法令の部分審査で目的手段審査をするか、
ということですが、これは、するということになるでしょう。
上の政治活動の例でいえば、
公務員の外観的中立性という保護法益を守るという目的のために
勤務時間外の地位を利用しない政治活動を罰することが、
目的の重要性や手段として目的との関連性・必要性を肯定できるか、
を審査することになります。
目的手段審査というのは、法令の憲法判断の手法であり、
憲法判断としての<処分審査1>に適用できるのは、
まあ当然ということになります。
(もちろん、法令の憲法判断の手法は、目的手段審査に限定されず、
ここで比較考量審査をする、こともできます。
ただ、これは処分審査では目的手段審査が<できない>という
ことを意味しません)
4 <処分審査2>=処分の適法性審査
では、処分の適法性審査としての<処分審査2>では、どうなるでしょう?
Q1 立法事実と司法事実
この審査は、憲法適合性判断が終わった法令の要件を
その処分が充たしているか、ということを判断します。
これは、要件該当性の判断なので、
司法事実を参照してやる必要があり、他方、
その法令の憲法判断は終わっているので、ここで立法事実を参照する必要はありません。
Q2 目的手段審査
また、ここでは要件を充たしているかどうか、が審査されるのであり、
例えば、ストがあったか、あったのなら、そのストは悪質か、といった
ことが審査されます。
なので、目的手段審査や比較考量審査はしません。
(もちろん、法令の要件が、
目的が正当で、手段として必要性があること、
というようなものだった場合には、
目的手段が審査されますが、これは
憲法判断としての目的手段審査ではありません)
5 まとめ
このように、
<処分審査1>=法令の部分審査では、司法事実は参照せず、目的手段審査をします。
他方、
<処分審査2>=処分の適法審査では、司法事実を参照し、目的手段審査はしません。
このように、司法事実参照の有無、目的手段審査の適否と言う点で
両者は対照的なのですが、偶然にも同じ言葉をあてられ混同が生じたため
わけがわからない感じになっているわけですね。
以上が、処分審査の概念のまとめになります。
ではでは、次回は、「処分違憲」ってなに?という問題をまとめたいと思います。
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